8月14日には、ニューヨークタイムズ紙に“Sabbath(安息日)”というタイトルの、穏やかで明晰な、いつもながらの筆致のエッセイが掲載されたばかりでした。予感があったのでしょうか、生前最後の本は今年4月に刊行された、自らが医師となるまでの、若き日のことを書き留めたON THE MOVEという自伝でした。
ロビン・ウィリアムズ、ロバート・デ・ニーロ主演で映画化された『レナードの朝』をはじめ、『妻を帽子とまちがえた男』、『火星の人類学者』といったエッセイで世界的に知られたサックス氏。近年も、音楽と人間との切っても切れないかかわりを脳神経学者として患者と接する立場から描いた『音楽嗜好症』や、自らのものをふくむ、人間の幻覚体験について綴った『見てしまう人びと』など、筆力の衰えをまったく感じさせない著作が続いていましたので、さびしい限りですが、「良い旅を」とだけ申したいと思います。
(自伝ON THE MOVEは、早ければ年内にも邦訳版をお届けできるかもしれません)