ドールの庭
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黒い川のまえ。銀のペンダントと銀のくつを身につけた少女が、渡し守の小人に、むこう岸のドールの町へわたしてくれるようたのんでいる。なにもかもが灰色にかれはて、ひっそりとしずまりかえったこのドールの町へ、少女は秘密の庭をさがしてやってきたのだ。庭のありかをたずねてまわる少女に、町のさまざまな人がさまざまな話をして聞かせる。相棒をうしなった町の門番、自分とそっくりな妹とひとりの男性をめぐってあらそった老婆、盲目の魔法使い、こわがりの少年、永遠にパーティーに行く準備をしつづけている女性……それらの話をつなぎあわせると、かつてにぎやかに栄えていたドールの町は、ひとりの魔女によって変えられてしまったらしい。黒い馬車に乗ってあらわれた魔女オディシアは、「おまつりの日、わたしとおどる者をひとりよこせ」と要求したが、人々がおびえて無視したため、「わたしのことをわすれたのか」と激怒し、町を不毛にしてしまったようだ。そのときに庭も消えうせたという。
いっぽう、とある吟遊詩人がいた。名前はヤリック。「いとしい人をさがしている」と歌い、人々に少女のゆくえをたずねるヤリックは、お礼がわりにこの7年間の物語を聞かせる。ある大きなお城の王さまに、娘がひとりいた。そのお姫さま(主人公の少女)のたったひとりの友だちは、庭師の息子。王さまはほほえましく思って見まもっていたが、王さまの愛人である魔女シルディスは、ふたりの仲を引きさこうと、ある日、少年を花に変えてしまう。なげき悲しむお姫さまに、お城の道化だったヤリックは「ここから遠くはなれたところに、その花の種をまきなさい」と助言する。お姫さまは、心臓の形をした種を銀の小箱に入れ、くさりにつけて首にかけ、銀のくつをはいて旅に出た。春になるたびにいろいろな場所に種をうめ、夏になると花が咲くが、少年はもどらない。やがて、ヤリックはシルディスから「ドールの庭にうめれば人間にもどる」と聞きだし、お姫さまを追っていってつたえた。お姫さまはドールの庭をさがして、あてもなく旅をつづける。「道化のぼくにできるのは、遠くからあとを追うことだけなんだ」とヤリックは歌う。
そのころ少女は、いやらしいヒキガエルが守っている塔の下の図書室をさぐりあて、1冊の歴史書を見つけた。それによると、魔女オディシア、またの名をシルディスという美しい女がこの町をつくったのだという。町は繁栄をほこっていたが、ある日オディシアはすがたを消し、伝説となり、やがてわすれられてしまった。その後、ふたたびあらわれたオディシアは、だれも自分をおぼえていないことに怒って町を変え、庭に若者たちをとじこめたうえで、かべのなかに永遠にかくしてしまったのだ。少女は絶望し、たまたま入った宿屋の中庭に種をうめる。「ごめんなさい、あなたを救うことはできないわ」と泣きながら。ところが、そのまま部屋に引きこもった少女が、数日後、たずねてきたヤリックにひっぱられて中庭に出てみると……
全篇をつらぬく「愛」というテーマが、大人の心にもひびく。みずからの手で愛をつかみとろうとする少女、むくわれないと知りながら少女を想いつづけるヤリック、人々から愛されなかったさびしい魔女など、陰影をたたえたキャラクターが出色。一大スペクタクルをへて、しずかな情感あふれるラストシーンへとつづいていく終盤も読みごたえがある。
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